FOR SURVIVORサバイバーインタビュー

ハート

働くことは生きる事

「仕事のことは心配しなくていいから今は治療に専念してください」
職場に「乳がん」の診断がついたことを伝えた時、皆涙目になりながらこんな言葉を掛けてくれました。本当にありがたい言葉でした。

これからどれだけの人に迷惑を掛けてしまうのだろう・・・

職場内では数名のがん経験者がおり、過去に長期の休みを取得された経験があったため、私が通院や入院で休むことに対して職場での抵抗は少なかったように思います。ただ、私自身が「できるだけ職場(現場)に迷惑を掛けたくない」、「できるだけ休まずに治療をしたい」と強く思っていました。診察は最後にしてもらい、仕事の休みはできるだけ時間単位で取得をしたり、乳房を温存すると放射線治療に1か月近く毎日通わなくてはいけないので、乳房全摘を選択して放射線治療は無いようにしたり、「術後退院した翌日から働く方もいます」という主治医の言葉を聞き、翌日は無理でしたが退院後4日で出勤したり、「抗がん剤が必要」と言われた時も最終的には「抗がん剤をしない」という選択をして、できるだけ仕事を休まずに治療をしてきました。

おひとり様のがん治療。働くことは生きることに直結しています。

両親がすでに他界してしまい頼る場所がない私にとって仕事は生活や治療を支えるための収入源です。そして孤独を回避する手段でもありました。社会とのつながりはとても大切で、毎朝目が覚めて「仕事に行かなくちゃいけない」「仕事がある」ことはとてもありがたかったです。治療中の私にも役割があり必要とされているんだ、ひとりじゃないんだと、私自身の生きる原動力になりました。

仕事をしていく中で、休むほどではないけれど手術後の体力回復に少し時間がかかり、またホルモン療法では地味な副作用が続きました。うまく眠れず睡眠不足だったり、ホットフラッシュで冬でも発汗が凄かったり、とても疲れやすく頭がボーっとしてしまったり。通勤電車内で体調が悪くなり途中下車したことも何度かありました。そんな中、いつも支えてくれたのは職場の同僚です。私の休みの応援はじめ、日常の仕事でも応援やフォローをしてくれました。笑いのある明るく優しい雰囲気の中で、特別扱いではなくいつも通り接してくれたことが何より嬉しかったです。

先日ホルモン療法を5年で終えることを決めた時、職場の同僚も「よかった」と涙しながら喜んでくれました。そして「ほんとはね・・・5年前、井浦さんが乳がんだとわかった時、こっそり泣いていました。」と話してくれました。辛かったのは私だけでは無く、職場の同僚も辛い思いをしていたのだということを、5年経って初めて知りました。そんな優しい同僚と今でも一緒に仕事ができることをとても誇りに思っています。

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毎年私の手術記念日には職場の机にピンクの花束が届きます。今年も「祝・手術から5年経ちましたね」と手紙が添えられていました。「体調どうですか?」と5年経った今でも声を掛けてくれる仲間がいます。私はとても恵まれた環境で仕事と治療の両立をすることができました。そしてこの病気を経験してから私自身の働き方は少し変わりました。以前は何でも前のめりでがむしゃらに働いていましたが、今は目の前にあることを大切に、ひとつひとつこなす「落ち着いて無理をしないスタイル」に変化しました。しっかり食事をして、しっかり睡眠をとって、しっかり体を動かして、地道に定年まで働くことが今の目標です。

もし、今がんを告知されて仕事を辞めようと思っている方がいらしたら、「早まって辞めないで!告知後の今、重大な決断はしないで!」とお伝えしたいです。辞めることはいつでもできます。でも一度辞めてしまうと再就職は難しくなることが多いです。今は今後の治療の見通しを知り、その中で自分がどんな風に働きたいのか、具体的に職場に伝え、理解を得ることが大切かと思います。もちろん仕事を辞めるという選択肢もありますが、高額療養費制度や傷病手当金制度、独自の休業制度や有休の使い方が柔軟な会社もあります。一度加入している医療保険の窓口やご自身の会社(人事部門)に確認して、ご自身が利用できる制度を知った上で検討をしてください。また、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも相談に対応してくれます。使える制度を知り、納得した上で、働く、働かないというあなたらしい選択ができますように。応援しています。

参考:「がんになったら手にとるガイド」

 

>>乳がんになって今だから思うこと[井浦玲子]

>>乳がんになって今だから思うこと②[井浦玲子] 

>>正式なセカンドオピニオンではないけれど

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